1990.4.20 / ギャラリー山口

田中幸人

毎日新聞

捨てがたい”道具”的な様態

関直美展

 ”彫刻”を面白くするにはいくつかの方向がある。重力の軽減化、量塊の空洞化、あるいは素材そのものの質の先鋭化、そしてインスタレーションとしての空間との呼応化などである。現代彫刻は、近代彫刻がかかえていた”かたち”や”重量”の固定的神話をいろんな方法で解体し、再構築することによって、私達にもう一つ別の視線があることを意識させてくれてきた。

関直美という女流彫刻家がいま個展でみせている二点の木の大作は、それら解体の諸要素を含みながらも、いま一つ、”道具”的な様態を加えてなかなか捨て難い魅力がある。

 この彫刻は、長さ1.5メートルほどの分厚い米マツが組み合ったユニット彫刻と思ってもらえばいい。ただし整然とは組み合っていない。例えば、床上に不安定な格好で四角な平面枠があり、その枠の中に蝶番でつながれたもう一つの面が曲面を描きながらトリッキーにくぐりぬけている。曲面は連結した板材の間に大きな楔を数個打ち込むことによって生じており全体と部分が、それぞれバランスよく個々を主張しているのが気持ちいい。

 そして肝心なところは、全重量200キロを超える作品が、観客がある部分を押してみることによって、ぶわん、ぶわんと震えることである。不安定な全体が震えるから、自らが建っている部屋空間が思わす揺れたかに錯覚する。それは重量のかかる支点に、スプリングが組み込まれているからであるが、ちっともそれが気にならない。この作品が成功しているのは、素材を妙に加工せず殺していないことである。分厚い板材はそのまま空間と重量を感じさせ、楔はさらにユーモアを加えて自在である。ちょっとした家具としても、あるいはビル空間の設置物としてもおかしみを放つかもしれない。作者は1949年生まれ。