1995.12

まつもとみちこ

マイレッスン

交信・・・・・。

木と金属が生み出す呼応する魂

森に木を探しに行く・・・。
ひとつの彫刻を創るために。

関直美がボストンに1ヵ月間滞在し、ギャラリーでの展示作品を制作した時のことだ。何とものびやかな話ではないか。
また今年の夏は、デンマークのホイヤー市で開催された「国際木彫シンポジウム」に参加。世界各地から招かれた22名の彫刻家とともに、10日間の公開制作を行った。
ここでは直径50センチ、背丈ほどのカシの木の丸太が、各作家に手渡される。かつて戦時の造船のために植えられた木が、彫刻家達の手で造形物に生まれ変わるのだ。

伝統的な木彫りから、現代美術の抽象作品まで、丸太の無限の変容が、彼女にとって新鮮だった。そのときのことを「造形の原点に戻って制作することの大切さを改めて感じた」という。
個性的な作家たちとの交流はもちろんのこと、参加者をホームステイさせる町ぐるみの催しは、得がたい体験だったに違いない。

彼女の木とのつきあいは長い。大学院で彫刻を学んでいたころから、木、鉄の素材に関心があった。
「木肌が好きなんですね。暖かみや節のおもしろさなど、さまざまな表情がある」
長い間、仲間たちと、「外野展」と称するグループ展を続けてきた。互いに刺激し、励まし合う関係。フルタイムの仕事を持っていたときも、制作を続けられたのは、かなりの意志の力と、仲間の存在があったからだという。

’90年から個展を始め、海外での展示に参加する機会も増えた。カタログや写真を見せてもらうと、このころから作品に緊張感が生まれ、構成のバランスや空間が定まったかのようだ。自らの中で核心に至ったのか。無駄がそぎ落とされ、潔さが小気味よい。
本人は「長い間作品の果たす役割を意識していた。社会の中で、何らかの変革の媒体になれば、と。だがそうした気負いが、今はない」と語る。自らの内なる声に耳をかたむけ、無心に創る、そんな境地なのだろうか。

「交信02」と名づけられた作品は、木とアルミを組み合わせたもので、ひとつの魂が空に向かい、呼応する魂を求めるかのように見える。
木や金属を相手に仕事をしていても、作品を創るのは「人が好きだから」という。現在の彼女にとって、表現することとは、人との交信なのかもしれない。

神奈川県川崎市のアトリエには、錆を浮かび上がらせた鉄板を基調とした、近作が置かれてあった。今までに使用されなかった石も登場している。新たな展開のきざしだ。
溶接や切断の機械、重いものを持ち上げるチェーンなど、町工場さながらの仕事場。火花を散らせながらの鉄の溶接を「楽しいですよー」と目を輝かせる。重い木材を扱う苦労を語りながら、「動かせないから、なたでバッサリ切っちゃった」大胆な切り口を見せる作品を示す。まさに繊細にして豪快。
彫刻の醍醐味を問うと、「緊張感、量感、虚の空間、そこにひかれる」と即座に答えてくれた。