2009.11.30 / シアターX(カイ)

宮田徹也 / 日本近代美術思想史研究

アヴァンギャルド ―【彫塑】―

ダンスの犬 ALL IS FULL 深谷正子 『CHAIN2』

深谷正子は当日配布したパンフレットで、「私の住む家は、高圧線の鉄塔のすぐそばにある。台風の時や強風の日はブーンと不気味なうなり声を上げる。アタリの空気をかき回し、その存在を拡大、主張してくる。」と、フライヤーには「両者から生まれる拘束のエネルギーは青い風となって重力を運ぶ。コンクリートの階段をストンと落ちるように意識が目覚める」とモティヴェーションを記している。

関直美が出品した立方体はパウチしたガーゼを組み合わせた素材であっても、彫塑である。中原祐介は現代彫刻が「物質を素材としなければならない」(『現代彫刻-改訂新版』美術出版社1987年)ことを指摘したが、深谷は正に此処にある「物質」を肉体で表したのであった。

作品の中で舞い、体を這い出し、鉄塔のように同形の作品の間を彷徨う45分の公演は、重力をキーワードにしたストラクチャーとして展開した。複数の扇風機が、関の作品を揺らしては止まる。その揺らぎに深谷の身体が間接的に反応する。その動きはこれまで深谷がその存在を自覚しながらも深い眠りに落としていた「意志が目覚める」ように、深く、重く、漂う舞いであった。

モティヴェーションにある高圧線の音を見事に気流として視覚化し、「青い風」となって重力を具現化したのだった。局部的な照明が、入っていた作品、扇風機、立ち並ぶ作品を照らし、物語性と空間の広がりを見せたことがこの公演のコンポジションの特徴といえるであろう。「物質」、「重力」、この彫刻が抱える問題を身体に託した点において、『CHAIN2』は【彫塑】のアヴァンギャルドであると定義することができる。