2000.3 /「公開制作 in 上海」 / 上海製紙研究所、中山公園

森永曹

上海 Walker

関直美さんの挑戦

関直美さんは日本はもちろんのこと、欧米でも大変活躍されている木の彫刻家である。彼女は木の魅力に30代半ばから魅せられ木を素材とした彫刻に世界各国で取り組んできた。「木のもつ暖かさ、木を通じての自然とのコミュニケーションに大変魅力を感じる」という。

過去、彼女はアイルランド、デンマーク、、イギリス、アメリカ(ボストン)などにて木の彫刻をを制作してきたが、その土地とのつながりが深い木を選んできた。アイルランドでは、地元の人々の支援により、絶滅の危機にさらされている数少ないエルムを材料として提供して貰った。大変貴重な木を地元の方々から提供してもらえたのは、地元の人々が彼女の木への愛情、こだわりを理解してくれたからだろう。

彼女の彫刻スタイルは空間との調和、葛藤を抽象的に表現したものである。肌で感じ取った空間に対し、インスピレーションから沸き上がる造形がハーモニーをかなでたり、フリクションを起こし葛藤するという。彼女の言葉でいうと、「基本はシンプルな造形を空間とどう対峙させるか。空間を見て、インスピレーションできめていきますよ。」ということなのだそうだ。

関さんが現在取り組んでいる、三菱商事の浦東新オフィスの空間とはいったいどのようなものなのだろうか。場所は浦東新区の市政府庁舎に近く、緑豊かで静かなシリコンバレー型の環境にある。新オフィスは一万三千平方メートルの土地に建つ延べ床面積約五千平方メートルの三階建てのビルである。さらに隣接する三菱商事の敷地には三千平方メートル程度の人工の森が作られ、研究開発、コンサルティングソフトウエアー開発などの知的労働に最適な環境となる。先生の作品が展示される場所はロビーの吹き抜けである。

三菱商事では、当初この場所に本物の生きた木を置くことも考えたが、外にあふれるほどの自然環境がつくられるので、無理に生きた木をオフィス内に閉じ込めるより、木の彫刻により木の暖かみをオフィスに取り込んでいく方が、21世紀へ向けた新しいオフィスには面白い発想ではないかとのことにより関さんに創作を依頼することになったという。

彼女は世界各国で彫刻の制作にあたるときに、大変楽しみにしているのが、現地の方々との交流と地元の反響である。特に今回は上海造紙研究所に作業場を設け、製作過程の参観会を2度設定する他、公開制作にし、興味を持つ美術学生と積極的に交流してみたいと思っているとのこと。そもそも抽象彫刻がどの様に上海でうけとめられるのであろうか。今後のスケジュールとして3月31日と4月7日の両日を公会参観会、5月17日彫刻作品の引き渡し、5月21日交流会が予定されている。「これらの交流の場を通じ、若い芸術家と現代の彫刻のあり方について話をしたいし、今回の作品について、製作過程も含め、美術学生との質疑応答会の場を持ちたい。」と、彼女は意欲を燃やしている。

今回の作品は中国産の赤松を素材として使った、バーティカルカッツ(垂直志向)とホリゾンタルカッツ(水平志向)に2作品である。バーティカルカッツでは高さ約4.5m程の垂直方向に伸びるオブジェで、吹き抜け吹き抜け部分の高い空間を利用したものである。チェーンソーでのカットに手をいれず、あるがままの自然の状態を表面に出したり、ミニマル主義でいきたいとのこと。また、ホリゾンタルカッツでは(水平志向)では、窓の外の世界との対話と緊張関係を表現したいそうだ。室内にある大理石、ベンチとの微妙な均衡も表現されるかもしれない。

三菱商事の新オフィスのロビーを飾ることになる関さんの今回の木の彫刻は、垂直志向であれ水平志向であれ、木のもつしなやかさ、つまり柔軟性と成長性が、今企業経営にも求められていることの象徴なのかもしれない。