「アートで過去と現在をつなぐ」/ アートプログラム青梅 / 2015.10.17 - 11.15

くらばやし・やすし / 美術評論家

同じように歴史的な素材を使用している催しに、「アートプログラム青梅」がある。青梅は織物産業が盛んだった街であり、地域的な記憶を持った建物が多く点在している。戦後をこの地で過ごした作家・吉川英治の住んだ家が記念館として残されているのもそのひとつだ。著名なアーティストに地元の美大生らも参加し、期間中には参加作家を中心としたシンポジウム、ワークショップ、鑑賞教室も開かれる。

私はいつもこの青梅アートプログラムを楽しみに散策する。遠くに旅行するような気張った気持ちではなく、多摩地区に住む私にとって、「何かのついでに」出かけられる、ほどよい場所である。そのような気分のうえで、秋の日に街のなかを散策しながら、街の記憶を秘めた場所でアートに出会うのは、豊かな気分を保障してくれるのだ。

今回で13回目となる今年2015年の「アートプログラム青梅」は、「感性を開く│一人ができること」をテーマとして、10月17日〜11月15日に開催された。

(中略)

いっぽう、『宮本武蔵』『私本太平記』など、歴史小説で大衆に親しまれた作家として知られる吉川英治(1892〜1962)が戦時中にこの地へ疎開し、約十年間住んだことをきっかけに、旧宅と、亡くなったあとそこに隣接して建てられた「吉川英治記念館」が、青梅近郊で公開されている。

ここでは、三人の作家の作品が展示された。そのうちのひとり、関直美(1949〜)は、庭と記念館のエントランスを使って、過去と現在の出会い、土地と作家(作品)との出会いを、縦糸と緯糸の交錯・集積として表現する作品を制作し、展示した。旧宅の庭が新たな相貌を与えられたようで、鮮やかな風景を現出させた作品だった。 このように、場所の記憶と現在・未来とを現代アートによってつなげようとする試みは、各所で行われている。今後、展示されるアート作品のいっそうの質の向上を含め、それらの試みのさらなる深化を期待していきたい。